この記事は何か
OKR シリコンバレー式で大胆な目標を達成する方法を読んだ感想と、実践のための考察
書籍を手にとった背景
転職先で、エンジニアリングマネージャとして活躍することを期待されている。
そこで、「組織を作る際に、何から手をつけるべきか」と考えた結果、ゴールの共有と人事評価制度の整備からするとよさそうと仮説を立てた。
組織を0から作るわけではないが、「組織が今、あるべき状態か?」ということを見極めるには、自分がこれが良いと思う像を作っておくのが良い。
短く言い換えると、本書を手にとったのは組織の形成のための核となるものを見つけるためである。
本書に期待すること
自分は、今まで2社のITの企業に勤めてきた。
どちらもMBO(目標による管理)を導入していたが、形骸化していたと言わざるを得ない。
企業のMBOの現状として最もよくあるケースは下記だと思う
・従業員は目標を決めさせられるが、それを目指しながら目の前の業務を行っている人はいない。
・従業員は、自分のできること、あるいはできたことから目標を捏造する(目標達成が評価に直結する場合は特にありがち)
極端な例かもしれないが、多くの会社員に同意してもらえると思っている。
本書で知りたいのは、
「そもそも何のために目標を設定するのか?」
「制度の狙いがわかったとして、形骸化してしまう原因は何か?」
ということである。
結論から言うと、これらの疑問の回答を得ることができた。回答内容は後述する。
本書の構成
本書の構成は、
前半が、とある仮想起業のストーリーで、2人の起業家が現状に問題を感じてベンチャーキャピタリストからの支援を受けてOKRを導入するサクセスストーリーが描かれている。
後半は、ストーリーを補完した上で、前半ではカバーできなかったケースまで詳細にOKRの実践方法を説明している。
前半は内容が薄めなので、忙しい人は前半は飛ばしても良さそうだった。その上でイメージが沸かなければ前半を読んでみてもいいかもしれない。
OKRを決める
実践する前の前提
経営理念が定まっている
OKRを設定するには、そもそもその組織がなぜ存在するのか決まっている必要がある。
一般的な言葉で言うところの「経営理念」のようなものである。
Product Market Fit を達成している
事業が立ち上がったばかりで、顧客が存在していない状態では、OKRはフィットしない。
なぜなら、四半期のスパンで1つのことを目指せないからだ。
O – Objectiveはどうあるべきか
Objective(=目標)は、チームを鼓舞するのもでなければならない。
毎朝、その目標を思い浮かべてベッドからワクワクしながら起き上がれたら、それは良いOだ。
また、Oは数値目標を含めてはならない。
Oは、四半期ごとに設定する。
また、全社・チーム・個人単位で設定する。(本書では個人については任意と記載されている)
大企業でも、中小企業でも、企業のミッションと齟齬がないように設定すべきだ。
定性的で明確な目標を1つだけ決める。
KR – Key Results はどうあるべきか
KRは、Oを達成するための定量目標である
達成できるかできないか50%くらいの確率であるものを設定するべきだ。
KRは、自分たちがOに近づいているか測定するために使う指標となる。
1つのOに対して3つ定義する。
例えば、Oが「自分たちのアプリが世界的に認められる」ならば、
- 30カ国以上のユーザーが会員登録する
- 10カ国以上のニュースメディアに掲載される
- 15以上の言語に対応する
上記の例が良いKRになると思う。繰り返しになるが、簡単すぎる目標は自分を引き上げてくれないし、難しすぎる目標はチームを疲れさせてしまう恐れがある。
つまり、達成できるか微妙な目標を建てなければならないし、あなたの会社が目標の未達成を責める環境であってはいけない。
そのため、目標の達成の可否は人事評価と切り離すべきである。
補足:人事評価について
人事評価として推奨するやり方は、月に2回の上司との1on1を設ける方法だ。
1on1では、
– エンゲージメント
– パフォーマンス
– 方向性
を5点満点で定めた見解を両者で共有する。
そうすることで、予期しない結果を無くすことができる。
OKRの設定の流れ
- 全従業員からOの案を集める
- 10人以下の経営幹部チームで、ポストイットを使って、最も優れた目標と、最も票の多かった目標を選ぶ
- 話し合い、自分たちを鼓舞し、能力を引き上げてくれそうなOを決める。
- 測定可能なKRをたくさん考え、各メンバーが1つずつポストイットに書く。(このとき、数値を先頭にして書くと読みやすい)
- 話し合い、Oに貢献してくれそうなKRを3つ選ぶ。
※2〜3は4時間以内が理想的
OKRを導入する
「良い疲れた頃に、人は耳を傾けはじめる」 – ジェフ・ウィナー、リンクトインCEO
チームでフォーカスするゴールを決めたら、毎日チームに繰り返し伝えなければならない。
口頭で伝えるだけでは不十分で、職場生活のあらゆる側面にリマインダーを織り込む必要がある。
ゴールを設定しておいて無視するは、失敗の簡単なレシピだ。
経営幹部でOKRを決めたら、従業員に浸透させていく必要がある。
研修やチームミーティングで告知するのが基本的な流れになるが、そこはあくまでスタートだ。
新しい制度を失敗に終わらせないために重要なのは、チームに伝え続けることである。
OKRを運用する
OKRを日常の一部にする
OKRを毎週のチームミーティング(もし実施していれば)や、毎週の状況報告メールに組み込むことを強くおすすめしたい。
そこで、自信度を記載して調整しよう
OKRを運用するには、リズムを作ることが重要である。
月曜日にチームのOKRを共有しコミット(=約束)する。
そして、金曜日にお菓子やお酒を用意して達成したことを祝う。このとき、達成したことにフォーカスし、厳しい会にはしないことが重要である。
チームメンバー全員が、状況報告メールで読みやすく簡潔なメールを送る。
報告のフォーマットは、見本では下記のようなものが好ましい。
・OKRを達成できるかの自信度のスコア
・OKRを目指す一方、守っていきたいもの
・主要な実施事項
・他部門に告知しておくべき予定
これらをチームで話し合い、週次でアップデートしたものを記載する。
感想
かなり要約したが、ざっくりとOKRについて説明した。
OKRはシンプルで、特に面白みがあるわけではないと感じた。
逆に言えば、現実的に組織に取り込んでいけそうというのが第一印象であった。
過去のMBOとの違いとして読み取れるポイントは、測定可能な目標を建てる前に、前提として目指しているモノを合意するというところが重要かなと思った。
「なぜ売上を上げたいか?」「なぜ満足度を向上させたいのか?」というKRの指標への疑問に対して、合意の取れたOという材料を用意することでコミュニケーションがスムーズになる姿は想像できた。
だからこそ筆者はOの設定に慎重になることを推奨している。
また、四半期中のOの変更についても言及されていない点から、一度決めたら少なくとも3ヶ月は変更できないと思ったほうが良いとも読み取れた。
生まれた疑問
人事評価制度と目標達成を密接にしている会社は多い。
1on1で、どのような話し合いを行うべきか考えたいと思った。
また、メールでのOKRのコミットを社員数が多い状況で読み切れるかどうかも、OKRを導入するための障害になりうると思ったので、どう工夫すべきか考えたい。
本記事に記載していないこと
私は、この記事だけでOKRを実践できる状態になることを想定していない。
例えば下記のような重要な疑問についての回答は、書籍を参照してほしい。
・組織構造が部門とプロジェクトのマトリクス制の場合はどうしたら良い?
・なぜOKRの導入は、一度失敗するのか?
実践で学ぶことこそ真理になり得るとは思うが、同時に、迷った時に原点に立ち帰れるようにしておくべきというのが自分の考えである。
読者がOKRを導入するならばOKR シリコンバレー式で大胆な目標を達成する方法を一度読んでおくべきだし、チームにも読ませたほうが良い。それだけの価値はある。
参考記事
Google re:work – ガイド:OKRを設定するという記事が簡潔で網羅的にOKRを説明している